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インタビュー
プロセスマイニング
2019.12.19

働き方改革支援としてのプロセスマイニングツールの海外動向と国内の状況<後編> - 情報通信総合研究所 上席主任研究員 手嶋 彩子氏

Cognitive Technology社CEO Massimiliano Delsante氏とハートコア社代表取締役社長/CEO神野純孝氏へのインタビュー

大手プロセスマイニングベンダーのCognitive Technology社CEO マッシミリアーノ デルサンテ氏、同VP Sales and Marketing Stefano Pedrazzi氏とハートコア社の代表取締役社長/CEO神野純孝氏、同コンサルタント松尾氏に、プロセスマイニングの変遷や国内の動向についてインタビューを行う機会を2019年10月に得たので、以下にその模様を紹介する。

欧州でのプロセスマイニングの成り立ちから現在までの変遷

―― プロセスマイニングはいつ頃から始まったのですか。どのように発展、普及したのでしょうか。

Massimiliano Delsante CEO(以下 Delsante):1990年代後半、オランダのEindhoven工科大学のWil van der Aalst教授(現在は独RWTH Aa-chen University教授 )がプロセスマイニングの概念を科学的に証明した。これには統計学が使われている。彼は、プロセスマイニングの理論の成り立ちを発表し、イベントログ分析によってプロセスマイニングができることを証明した。彼は、プロセス可視化を着想し、研究を開始した。その教授を中心にプロセスマイニングの研究が進展した。

その後、同大学のAnne Rozinat氏が2009年にFluxion社を設立し、プロセスマイニングツール「Disco」を開発した。彼女は、エバンジェリストとして、オランダで、プロセスマイニングツールの普及に注力した。オランダでのツールの普及は目覚ましいものとなり、中小企業も含めたオランダの企業の普及率は6割となった。年間300万円程度の安価なサービスであったことも普及に寄与した。

2008年にはGartner社もプロセスマイニングを「ABPD(Automated Business Process Dis-covery)」として紹介を開始している。

さらに、2011年には、米IEEEが「プロセスマイニングマニフェスト」を発行した。欧州を中心に商用プロセスマイニングツールが登場し、ビジネスでの活用が進展した。Cognitive Tech-nology社は2016年にGartnerの「Process Mining Vendor」として選出された。2018年にはGartnerが「Market Guide for Process Mining」を発行し、ここで15のツールが紹介され、2019年発行の同書では17のツールが紹介された。「myInvenio」はどちらにも紹介されており、Cognitive Technology社は、代表的なツールベンダーである。

国内参入動向、「myInvenio」の強み

―― プロセスマイニングベンダーで日本に参入してきているのはどこですか?

神野 CEO(以下神野):日本に入ってきているのは、Celonis社、Lana社、Fluxion社、Signavio社である。操作画面だけでなく、マニュアルを含めて日本語版があるのは、ハートコア社のmyInvenioのみである。

―― プロセスマイニングサービスごとの特徴の差異は?

Delsante:プロセスマイニングベンダーについては、参入したばかりのスタートアップ企業や、デスクトップ特化など、初歩的なことしかできない事業者が多い。我々の主な競合事業者はCelonis社、Process Gold社だ。「myInvenio」には大きくは以下の3つの特徴がある。

  • Discovery機能:
  • データを投入するだけで、自動的に業務フローをモデル化できる。現状の社内業務を業務フロー化できる。

  • 適合性チェック機能:
  • As is、To be(あるべき姿と本来の姿)の適合性をチェックできる。

  • シミュレーション機能:
  • シミュレーション機能を使うと、将来のオペレーションでの効果を事前に計ることができる。改善による6カ月後、1年後の効果を事前に把握できる。

神野:他社のプロセスマイニングでは、アラートは出るが、どう改善したら良いのかについてはわからない。シミュレーション機能を使うと、このプロセスをこう改善するとどれくらいコスト、時間が削減できるのかが、わかる。他社のシミューレション機能は、パラメーターを入れて計算しており、改善後の状況は予想に過ぎない。「myInvenio」では改善して本当に効果が出るのかが、明らかになる。単にパラメーターを入れて計算するのではなく、仮想的なケースを実際に生成してシミュレートし、検証して、プロセス改善後の効果を出しているため、より正確な予測が可能になる。

「myInvenio」のターゲット層、ユーザー層

―― ターゲットユーザー層は?

Delsante:我々のターゲット層は年商2.5億ユーロ(約300億円)以上の企業である。それ以下だと、費用対効果が少ないということだ。

―― ユーザー数は?

Delsante:顧客数は1,000契約程度。重要顧客数は300組織。金融(銀行、例えばイタリア銀行)、FCA(Fiat Chrysler Automobiles)、アルファロメオ等の自動車企業等製造業など、あらゆる業種で利用されている。

社内で、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進を担当する部署があり、そのような部署に提案している。

「myInvenio」のサポートサービスと中小企業の利用動向

―― ソフトウェア製品に加えて、サポートやコンサルティングサービスをしているのでしょうか。

Delsante:我々は大企業に対して、サポート、コンサルティングサービスも併せて提供している。大企業ユーザーは、自社のグループ企業に対して、独自にサポートしている。

―― 中小企業は利用しているのでしょうか。

Delsante:大企業のサプライチェーン傘下の企業が利用している。大企業が自社グループ企業に対して導入を促しており、ユーザー企業が自社でサポート機能も提供している。

国内のプライマリーユーザー

―― 日本国内のユーザー動向は?

ハートコア社コンサルタント 松尾氏:業務改革担当、CDO(Chief Digital Officer)等が、DX推進の有力な武器として、プロセスマイニングを使えると評価している。本社機能ではなく、自社のグループ企業すべてに展開しようとする動きが出てきており、本社主導で子会社に進めていく動きがある。彼らは自分達で自立してプロセスマイニングを使い、グループ会社向けにサポート機能を提供しようとしている。我々のプライマリーユーザーになるだろう。

国内の中小企業の導入動向の見通しと課題

―― 日本国内の中小企業への導入の見通しは?

神野:価格と機能の問題がある。低価格なオープンソースでのプロセスマイニングのプロダクトは操作が難しく、大学で統計学の勉強をしている人が相当数必要だ。日本国内には統計学部が少ない。知識のない方が使える状況ではなく、ユーザー企業が安価なツールを活用できるような土壌がない。オープンソースは、十分な統計学の知識を有しないと、使うのは難しい。

―― 中小企業での導入の近道は?

神野:大企業で使ってもらうことが重要だ。大企業で導入し、子会社の企業がこれを使い、学んでいく必要がある。導入企業で働いたユーザーが転職し、転職先で他の企業に勧めていくと良い。SAP等の既存ソフトウェアの普及動向を見ても、大企業から、中小企業に拡散していくことが重要となる。

(左)Cognitive Technology社CEO Massimiliano Delsante氏 (中)同VP Sales and Marketing Stefano Pedrazzi氏 (右)ハートコア社CEO神野純孝氏
(左)Cognitive Technology社CEO Massimiliano Delsante氏
(中)同VP Sales and Marketing Stefano Pedrazzi氏 (右)ハートコア社CEO神野純孝氏

国内企業の導入における課題

―― 日本企業の導入に向けての課題は?

神野:日本のプロセスマイニングの問題点はもう一つある。ドイツではSAPが標準だ。ほぼすべてのプロセスが可視化できる。日本では業務の中心がMicrosoft Excelだ。Excelはログが出ず、Excelの作業を可視化できない。ERP、CRMの可視化はできるが、社員が行っている業務は可視化できず、分断が生じている。これがプロセスマイニングの普及が遅れている理由だ。加えて、SAPのログにしても3カ月、1週間で捨ててしまう企業が多い。日本企業は、ログの取得ができていないことが導入の課題となっている。

ハートコア社では、米「Cicelo」を提供している。PC操作のログを可視化するツールだ。日本国内の大手ベンダーのアプリはエラーログは出すが、業務ログは出さない。そのため、「Cicelo」を導入すれば、日本の顧客はログ情報を取得し、業務の見える化ができる環境になる。

日本ではプロセスマイニングの啓蒙活動から始めないといけない。プロセスマイニングは可視化ツールではない。業務改善ツールだ。改善することにより、ソフトウェア投資以上の利益を出すようにしていく。日本の国内市場はまだこれからの段階。他社と一緒に市場を開拓していきたい。1社ではできないからだが、残念ながら、日本市場にはエバンジェリストがいない。ハートコア社では、エバンジェリスト的な動きも行うようにしている。

―― 啓蒙活動の具体的な取り組みは?

神野:セミナーを実施している。プロセスマイニングのセミナーは申込受付開始から2時間すぎると満席になり、他のサービスに比べ、注目度は高まっている。

―― プロセスマイニングツールについて反応のある業種は?

神野:銀行、製造業、自動車、製薬会社等だ。

Delsante:日本国内ではメーカー、製薬、保険会社などだ。

諸外国と比べた国内企業の導入動向

―― 日本と比べた、プロセスマイニングツールの諸外国の動向は?

神野:オランダはGDP、人口が少ないのに、プロセスマイイングツール市場が大きい。プロセスマイニングツールはオランダで生まれ、育ったツールだ。

Delsante:米国も導入し始めたばかりである。米国は今後のプロセスマイニング市場において重要な市場だ。

神野:米国も日本も現在、開始したばかりの段階で、同じだ。少し米国の方が進んでいる。これから日本市場拡大に向けて、市場への啓蒙活動を推進していく。

まとめ

日本国内でのプロセスマイニングツールの導入は始まったばかりであり、これから市場拡大が見込める分野である。国内企業が、業務遂行のやり方の改善を伴う「働き方改革」を行い、生産性向上につながるように、プロセスマイニングが支援ツールとして、認知度を向上させ、普及が進展していくことが期待される。

日本企業の情報化投資の課題として「業務改革・組織改革を伴わない情報化投資」により、その結果として「生産性や付加価値の向上」が諸外国に比べ十分ではない点が指摘されている。

プロセスマイニングの導入により、業務を可視化し、改善できれば、国内企業の情報化投資の導入効果は変わってくる可能性があり、今後の動向が注目される。

てしま・あやこ
手嶋 彩子(てしま・あやこ)

2004年より(株)情報通信総合研究所にて、ICT経済の動向分析、国内の通信サービス市場やICT利活用産業の動向に関する調査研究を行っている。経営学(修士)。

出典((株)情報通信総合研究所「InfoCom T&S World Trend Report」12月号より)

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