事例から学ぶデータ基盤活用の効果
~データドリブン運営でリードタイムの30%短縮を実現~
前回プロセスマイニング&タスクマイニングの導入で、現在抱えている業務課題がどのように改善されるのかを紹介しました。ブログの最終回となる今回は、プロセスマイニング&タスクマイニングを導入してデータ基盤を整備し、実際に効果を上げている企業の事例を紹介します。後半ではRPA導入から新システム移行プロジェクトの迅速化、非効率タスクの削減など、多くの企業で直面している(であろう)課題の解決アプローチも具体的に紹介します。
もくじ
「グローバル拠点の業務が把握できない!」で、データ基盤の構築に着手
導入事例企業データ(2022年4月現在)
導入企業(部門):グローバル専門商社(DX推進部門)
従業員数:約4000人
売上規模:約7000億円
今回紹介する企業は、2021年からハートコアのプロセスマイニング「HCmyInvenio」とタスクマイニング「CONTROLIO」を導入いただいている大手専門商社です。日本国内拠点のみならず複数のグローバル拠点を擁する同社は、グローバル拠点の基幹システムはSAPを、国内拠点では国内ベンダーがスクラッチ開発した基幹システムを運用していました。その結果、グローバル拠点の業務プロセスが把握できず、作業の重複など複数のボトルネックが発生していたのです。
さらに、アイテムごとのプロセスも不明瞭でサイロ化・属人化しており、だれも把握できていない状態が続いていました。そうした背景から、海外子会社(グローバル拠点)のリスクガバナンスの枠組みも不明瞭でした。
この課題を解決すべく、同社では両基幹システムのプロセスマイニング用ログを生成して業務プロセスを可視化しました。具体的にはPC操作のログからタスク分析を実施してタスクを可視化し、非効率な箇所を詳らかにすることでその改善を実現したのです。
その結果、1プロセスあたりの平均コストを20%削減し、リードタイムを30%短縮することに成功しました。また、他システムとの連携活用でオペレーションを効率化し、リスクガバナンスの全体把握とグローバル拠点の業務プロセスの可視化も実現したのです。
では、データ基盤構築のアプローチを紹介しましょう。データ基盤構築は以下の2ステップに大別できます。
ステップ1……評価と検証
- 分析機能検証の評価
- システムデータ評価
- 業務改善にプロセス可視化が利用可能かどうかを検証
ステップ2……データ基盤構築(リアルタイム分析基盤構築)
- データ基盤の安全性・コスト効率・拡張性・信頼性を検討
- データ定義書の作成
- データ収集・データ加工・レポーティング・データ分析・予測シミュレーションのサイクル運用
ステップ1で重要なのは、「データ自体の問題を把握する」ことです。そのためには「データの所在」から「データ定義書の不備・データのサイロ化状態・業務とシステムの整合性」を確認する必要があります。
「データの所在」が整理されれば、データドリブン経営に懐疑的な経営者もプロセスマイニングの有効性と必要性を理解できるでしょう。さらに、リスクコンプライアンス観点からPC操作ログを分析するタスクマイニングの有用性も評価してもらうことが重要です。
ステップ2の主な作業は、データ定義書の作成です。SAPには「O2C」「P2P」のモジュールがあり、それに対応してテーブルがあります。下の図は、SAPのTABLES(SAPテーブル一覧)とモジュール、アクティビティとの関係性を定義書(SAPデータ定義書)として整理したサンプルです。
SAP TABLES (SAPテーブル一覧)を特定の抽出条件により取得し、プロセスマイニング用のイベントログを生成します。右図(SAPデータ定義書)は分析対象のデータ項目を整理したサンプルです。このようにデータ定義を整理することで、業務とシステムが紐づけられるのです。
業務プロセス可視化を意識した設計思想の重要性とは
少し話は脱線しますが、基幹システムを提供している国内と海外のITベンダーを比較すると、基幹システムに対する設計思想が異なっていることに気がつきます。 Process Automation)の導入です。
SAPなどの海外ベンダーが提供している基幹システムは、プロセスIDを連携して業務プロセスを可視化できます。一方、国内ベンダーが提供しているスクラッチ開発の基幹システムは、業務プロセスの可視化がほとんどできません。その背景には基幹システムをグランドデザインする設計段階から、「業務可視化を意識した設計思想」が異なるという根本的な違いがあります。
業務プロセス可視化は、経営に大きなインパクトを与えます。しかし、経営的な視点を意識しながらシステムを開発する開発者は少数派です。たとえば基幹システム上で運用する業務アプリの開発者が、「他の業務アプリと連携できるように、プロセスIDの定義を認識する」ことはほとんどありません。
業務可視化を意識した設計思想は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するデータ基盤を構築するうえで欠かせません。今回紹介するお客様は、プロセスIDの定義を確立して「システムと業務の紐づけ」を実現しました。これにより「縦割り組織権限でシステムと義務アクションが結びつかない」という日本企業特有の課題を解決しています。この「データを共有言語化する」というアプローチは、「業務可視化」の観点からも重要なのです。
以下の図はお客様の問合わせからセールス、会計までの業務プロセスとシステムログの関係を問い合わせ、IDを元に各データを紐づけたイメージ図です。プロセスIDの定義で業務プロセス全体像が把握できたからこそ、業務の効率化が成功したといえるでしょう。
プロセス&タスクマイニング分析によって蓄積されたデータから「ムリ・ムダ・ムラ」を可視化し、業務を改善します。ビジネスの起点とオペレーション分析ソースの関係を考えてみると、人のアクションを基軸にプロセスマイニングとタスクマイニングの両軸からの分析が必要です。データ基盤を構築すれば業務プロセス全体が可視化できますから、システムログを統合したプロセス&タスクマイニング分析もできるようになるのです。
データ基盤を活用した改善事例
ここからは実際にデータ基盤を構築した結果、どのような効果が享受できたのかを見ていきましょう。最初はRPA(Robotic Process Automation)の導入です。
RPA導入
RPAは人間の仕事をソフトウェアロボットに代行させて業務を自動化するアプローチです。少子高齢化による人手不足解消や生産性向上とコスト削減を図るという観点からも、多くの企業で導入が検討されています。
ただし、RPAの導入には、各現場担当者が現在の作業内容を定性データで確認する必要があります。つまり、現在の全業務を棚卸しすることから始めなければなりません。これは組織がサイロ化し、業務で個別最適化が進んでいる日本企業にとってもっとも難解な作業です。実際、今回紹介している事例企業でも、「事前準備に手間がかかりすぎる」と二の足を踏んでいた部門もありました。
こうした部門に対してはきめ細やかな支援が必要です。同社ではPRA推進担当者がRPA開発に時間を費やしていた期間(3カ月)を利用し、各部門に対して導入説明会を開催し、運用方法などを説明しました。同時に以下のようなスケジュールで、プロセスマイニング&タスクマイニング分析を実施し、既存業務を棚卸ししました。
- 購買システムログをプロセスマイニング分析する
- リードタイムとボトルネックになっているアクションを特定する
- 個人のPC操作ログからタスクマイニング分析する
- 個人・部門の作業フローを分析(重複作業・繰り返し作業など分析)する
- キーストローク・作業動画で非効率な詳細作業を発見する
- 改善後のリードタイム・業務量の短縮効果を測定する
- 施策導入計画を作成する
その結果、開発完了後はすぐに本格導入が始まりました。本格導入後に実施したモニタリングによると、リードタイムは約30%短縮されたといいます。
新システム移行プロジェクト
言うまでもなくERP(Enterprise Resource Planning)導入は大規模プロジェクトであり、数年単位の期間が必要です。しかし、データ基盤が整備されていれば、ERPの導入/移行プロジェクトも短時間で実行可能です。具体的な施策は以下のとおりです。
- 「As Is」分析現状のシステムと個人タスクを可視化する
- 現状のプロセスのボトルネックを把握する
- 新システムで業務プロセス(プロトタイプ)設計し、ローコード開発する
- プロセス&タスクマイニング分析活用のためのテストシナリオ検証する
- データ移行期間を利用し、従業員に対する教育を実施する
- 本稼働後、プロセス&タスクマイニング分析を活用し、導入前/後の比較分析をしてROI(投資収益率)を算出する
「1」の「As Is」分析は、Excelの稼働状況を把握することが目的です。ヒアリングによる個人タスクの把握では「どの業務に/どのくらいの時間を要しているか」は把握できても、「最適なツールやプロセスで業務をしているか」までは正確に把握できません。
一般的に日本企業はExcelを多用すると指摘されています。「Excel職人」と呼ばれる従業員がマクロを駆使し、“目の前の作業”を効率化しているケースが多いのです。この場合、現場の作業負担は一時的に低減されますが、会社全体で見ると非効率なタスクが乱立することにつながるのです。
こうした課題を解決するのがタスクの可視化です。これにより、現状は100%把握できます。そのうえでプロセスIDの定義を設計思想に取り入れて、シナリオ設計(Tobe設計)するのです。これによってテスト品質は大幅に向上します。なお、具体的なスケジュールは以下の図の通りです。
システム移行計画時のROIシミュレーション
以下の比較データは、グループ本社で採用しているスクラッチ開発のシステムと、グローバル拠点で利用している汎用的なシステムを、プロセスマイニングで分析した事例です。具体的な分析手順は以下の通りです。
- グループ本社で採用予定の新システム構築テストを実施する
- プロセスマイニング分析で1プロセスあたりのコストと平均作業時間を算出する
- 同業務プロセスの古いスクラッチシステムのログをプロセスマイニング分析する
- 古いシステムの1プロセスコストと平均作業時間を算出する
- 新システムと古いシステムとの平均作業時間と1プロセスコストを比較しROIを算出する
- ROIを経営報告し、グループ企業全体で新システム刷新を決定する
非効率タスクの削減
データ基盤でデータの所在が明確になっていれば、「データボリュームから非効率な作業を特定する」というアプローチも可能です。同社ではデータ集約による効率化の結果、ペーパレス(電子化)が必要な箇所を特定でき、ペーパレスによってタスク効率が50%以上も向上しています。具体的な手順は以下の通りです。
- 予算管理業務の担当者へPC操作ログ(タスクマイニング用データ)を取得する
- タスクマイニングデータから「ボリュームの観点」と「タスクプロセスの観点」で分析する
- 最も比重のあるファイル名を特定(ボリュームの観点)する
- 「アクティブ時間」の比重が高いファイルを特定し、時間軸と前後のPC操作ログからタスクプロセスを抽出し、そのログをプロセスマイニングでビジュアル化する
支社間のプロセス比較による業務改善
支社で採用されている物流システム(WMS)とPC操作ログをプロセス&タスクマイニング分析すれば、「物流が滞りがちなのはどの支店か」が詳らかになります。
同社では中部支社は10日11時間、関西支社は12日10時間となり、関西支社のほうが約2日遅いことが明らかになりました。その原因を分析したところ、関西支社では適正在庫の管理方法に問題があることが明らかになりました。在庫スペースの都合上、適性在庫を保持できていなかったのです。
そのため 関西支社では倉庫スペースを見直し、適正在庫のスペースを確保しました。その結果、中部支社と同等のリードタイムで運用できるようになりました。なお、具体的な手順は以下の通りです。
- 各支店で導入されている物流システムログ(WMS)をプロセスマイニング分析する
- プロセスマイニング分析により各支店の1プロセスコストと平均リードタイムを算出・比較する
不正行為発見プロセス
プロセス&タスクマイニング分析でリアルタイムに作業が可視化できる利点は、不正行為の予兆を早期に捉え、防止することが可能です。具体的な手順は以下の通りです。
- 受発注データ・購買データ・会計データの統合されたデータ基盤で、プロセスマイニング分析をリアルタイムに実施する
- 「発注・調達・承認」を同一人物で行っているプロセスがあった場合、アラートを上げる設定にする
- 3年以上同一プロジェクトの場合はアラートを上げる設定にする
- 処理人物の取引タスクデータ(タスクマイニングデータ)を確認する
この段階で不正行為が疑われる場合には、関与度確認としてプロジェクト期間・役割確認・取引先・プロジェクト担当者へ確認します。そのうえで「不正である」と確定した場合には、執行役員をはじめとする経営者へ報告します。
さて、5回にわたりプロセスマイニング&タスクマイニング導入の必要性について紹介した本連載は、いかがだったでしょうか。
世界では不確実性が増し、先の予測できない状態が続いています。そのような状況では時代に対応する力をつけるだけでなく、「結果から学ぶアプローチ」から「データから推測するアプローチ」へ移行することが重要です
ハートコアでは2019年より「プロセスマイニング&タスクマイニング」で日本企業のDX推進を支援し、お客様の課題に寄り添いながら、さまざまなご提案をしています。本ブログではわれわれが推奨する「デジタル経営戦略」についても紹介しました。皆様のデジタル経営改革推進のお役に立てれば幸いです。